音場

1,音圧分布

音は音源から遠ざかるにしたがって、どんどん小さくなっていきます。それは、音が広がりながら進んでいくものだからです。音源から放たれた音のエネルギーは、遠くに行くほど広い面積に広がってしまいます。つまり遠くに行くほど薄くなってしまうということです。それで、音は遠くに行くほど小さくなってしまうのです。これは、言ってみれば自然の法則で、変えることのできない音の宿命です。

 

しかしだからといって、役者や歌手の声が後ろの席まで届かないのは、仕方がないことだ、と開き直るわけにはいきません。また、後ろの人のためにボリュームを上げるから、最前列では耳が痛いが耐えてくれ、というのでは、話になりません。そこで、場所による音量差をなるべく小さくするために、色々と工夫をすることになります。

 

ひとつにはスピーカをお客さんの頭上高く持ち上げてしまうという方法があります。つまり、一番近くにいるお客さんでも、スピーカとの距離が十分に取れるようにするわけです。こうすることで、最前列での音量と客席後方での音量との差を小さくすることができます。これで、後ろの人のためにボリュームを上げても、最前列で耳が痛いということはなくなります。

 

もし、「音は広がりながら進んでいく」という根本原理に、何か対策を講じることができれば、どの場所にもまんべんなく音を届けられるはずです。なぜなら、広がらないということは、薄まらないということなので、音はその音量を保ったまま進んでいくことができるからです。実は、壁や天井で囲うだけでも、その効果があります。壁や天井で囲うと、音を閉じ込めることができます。閉じ込められた音は、もはやそれ以上は広がっていくことができません。もちろん、中には、壁や天井を透過したり、壁や天井で吸収されたりする音もあります。しかし、それらを差し引いても、これにはかなりの効果があります。野外ステージよりも、ホールや劇場など室内の方が、音は遠くまでよく届くということです。

 

 

 

さて、こうした工夫や配慮がどれだけ功を奏しているか、それを調べるのが、音圧分布の測定です。スピーカでピンクノイズを鳴らし続け、客席に設けた複数の測定点をまわって音圧を測ります。評価の基準には、特にこれと決まったものはないのですが、場所によるばらつきは、できれば10dB以内に収まっていて欲しいものです。測定に使用するスピーカは、実際に会場として使用するときのPA設備(拡声装置)と同じものか、それに近いものを使用するのが良いでしょう。また、単にその空間の音響特性として音圧分布を知りたいという場合には、無指向性の(四方八方に音が飛び出す)スピーカを用いて、それをステージの中央に置いて測定するのが一般的です。

 

2,残響時間

1 残響

お風呂に入ると、心地良い音の響き具合に、ついつい鼻歌が出てしまうものです。つたない鼻歌も艶やかに演出してくれるこの響きこそが残響と呼ばれるものです。

 音は風呂場のような空間に閉じ込められると、壁や床、天井などにぶつかって、反射を繰り返します。そのつどくしゃくしゃになり、また弱まりながらも、力尽きるまでその空間を伝わり続けます。そしてそれが私たちには「心地良い音の響き」に聴こえるのです。これが残響の正体です。

 

残響は風呂場や洞窟、体育館といった特別な場所だけにみられる現象ではありません。程度の差はありますが、実は、残響はどこにでも見られる現象です。教室でもオフィスでも、自宅の一室であっても例外ではありません。ひょっとすると、それはとても短く弱いものかもしれませんが、それでも必ず残響はあります。試しに、学校の教室やあなたの自宅の一室で、手を叩いたり、声を発したりして、その響き具合を確かめてみてください。注意して聴いてみれば、わずかながらも音が響いているのを確認できるはずです。もし、残響の無い場所をあげるとするならば、大平原の真ん中や、周囲よりもひときわ高い山の頂上のように、周りに音を反射するものが全く無い場所をあげることになります。しかし、そのような場所はどこにでもあるようなものではありません。このように私たちは、残響があるのが当たり前の環境に暮らしているために、わずかな残響には気がつかないことが多いのです。

 

2 残響時間

残響時間とは、空間の音の響き具合を評価するための尺度で、その空間での残響が、どれだけ長く響き続けるのかを示したものです。文字どおりに解釈すれば、残響音が消えてなくなるのに何秒かかるのか、を測ったものということになるでしょう。しかし、実際に残響時間を測定する場合には、そのような測り方はしません。なぜなら、残響というのは、徐々に弱まっていってついには聴こえなくなってしまう、という消え方をするので、鳴り止む瞬間を見極めるのは非常に難しく、測定するのが不可能だからです。第一、小さな音で始まる残響よりも、大きな音で始まる残響の方が鳴り止むのに時間がかかるに決まっていますから、測定値が音源の音の大きさに左右されてしまい、不都合です。そこで残響時間を測る場合には、残響音が60dB減衰するのに何秒かかるのかを測ることになっていて、それが残響時間の定義になっています。

 

3 最適残響時間

残響時間が長ければ、それだけ豊かな響きが得られるということになります。しかし、その代わりに音の明瞭度は落ちてしまいます。ですからもちろん、ある程度の残響はあった方が心地良いのですが、あまり残響が長いと、テンポの速い音楽や、スピーチを行う場合には支障があります。用途や好みにもよりますが、空間にはちょうど良い音の響き具合というのがあるのです。このときの残響時間を、最適残響時間と呼んでいます。また、この最適残響時間は、空間が広くなるに連れて、長くなる傾向にあります。つまり、小さい部屋では短めの残響を、また広い空間では長めの残響をちょうど良いと感じるということです。

 

4 残響時間周波数特性

残響時間が同じでも、高い音が響いて残響になる場合と、低い音が響いて残響になる場合では、音の印象は随分と違ってしまいます。ですから、音響空間の音の響き具合について、より詳しく調べるためには、どの高さの音がどれくらいの残響時間で響くのかを、周波数ごとに調べる必要があります。一般的には、帯域ノイズといって、ピンクノイズを1オクターブ毎に区切った音を使って、それぞれの帯域での残響時間を測定します。このようにして得られたデータを残響時間周波数特性と言います。

 

残響時間周波数特性の評価は難しく、正しい評価のためにはかなりの経験が必要です。それというのも、これは、ほかの周波数特性とは異なり、フラット(平ら : 周波数によるばらつきがない)ならば良い、というものではないからです。しかし、経験を積むといっても簡単にできるものではありません。そこで、重宝するのが、リバーブマシンです。

リバーブマシンは、ホールやライブハウス、教会など、色々な音響空間の残響をシミュレートできる機械で、音に、あたかもその空間にいるような効果を与えることができます。この機械の多くは、事前に用意されたシミュレーション・データを用いるだけでなく、使用者が自由に設定を変えて、残響の具合を調整できるようになっています。この機械を使えば、どの帯域の残響音が効果的で、どの帯域の残響が問題を引き起こしやすいかなどを擬似的に体験し、確かめることができます。

 

残響時間 資料

資料1 音の反射・透過・吸収のイメージ

 

資料2 ホールの残響時間

資料3 ホールの最適残響時間

資料4 スタジオの最適残響時間

3,伝送特性

楽器やスピーカから出た音は、壁、床、天井、さらには家具や人間などいろいろなものにぶつかって、反射したり、吸収されたりしながら伝わっていきます。ところが困ったことに、その伝わり方は周波数によって異なるのです。だから例えば、高い音は反射して強調されるのに、その一方で低い音は吸収されて弱められてしまうというようなことが起こります。つまり音は、空間をただ伝わるだけでゆがめられてしまうのです。もちろん空間(場所)を替えれば音のゆがみ方も変わります。物の配置や人数が変わっただけでも、音の伝わり方は微妙に変化します。劇場やスタジオでは、このことは重大な問題です。

 

ある空間がどれだけ音をゆがめてしまうのかを調べ、これをグラフに表したものを伝送特性と言います。伝送特性は、その空間が音響的にどのような性質を持っているのかを知るための重要な手だてとなります。どのような特性が望ましいのかということは、好みや用途の問題もあり、意見の分かれるところです。がしかし、空間をごく一般的な音響空間として評価するのなら、次の2点を目安にすれば良いでしょう。

 

・ ほぼ平担で極瑞な山谷がない事

・ 各測定点による特性のばらつきが少ない事

 

フラット補正

 

代表となる受音点を一つ選びフラット補正を行う。補正には、ピンクノイズを用い、これをスペクトラムアナライザで監視しながらグラフィックイコライザを操作する。さらに、補正の前後で音がどんなふうに変化したのかを聴き比べる。

 

耳による補正

 

フラット補正をしたのと同じ受音点で、耳だけを頼りに補正を行う。フラット補正のときと同様に、補正の前後の音を聴き比べる。

 

 

伝送特性 資料

資料1 伝送特性の例

資料2 フラット補正の例