楽器の測定

1,基本周波数

1.概 説

 

例えば、フライパンを叩いて「カーン」という音がしたとしましょう。この「カーン」という音は、一つの音でありながら、実は、周波数の違ういくつもの音成分が組合わさって成り立っています。このうち、もっとも周波数の低いものを基音と呼びます。そして、それ以外の音の成分を上音と言います。また、基音の周波数のことを基本周波数と言います。

 

楽器音(パーカッション類を除く)の場合には、基本周波数によって音の高さが決まります。ドレミファ…の、どの音なのかが決まるわけです。そして上音は音色を決めます。ギターの音と笛の音は、同じ高さの音を出しても全く違う音に聴こえます。この違いを生み出しているのが、上音です。

 

ギターや笛の音では、上音の周波数は必ず基本周波数の整数倍になっています。(それ以外のものも含まれますが、とても少なく弱いです。)このような上音のことを特に倍音と呼んで区別しています。 楽器ごとの音色の違いはこの倍音のブレンドの具合で決まります。

 

楽器の中には、ドレミがはっきりしない楽器もあります。パーカッションなどは、ティンパニーなど一部のものを除いて、ドレミのようなはっきりした音階を作ることができません。このような音では、上音は基本周波数の整数倍にはなっていません。(もちろん整数倍のものも含まれますが、全体からみるとわずかです。)この場合、音の高さの違いは、基本周波数よりもむしろ、どの高さに周波数成分(上音)が集中しているかによって判断されます。

2.測 定

2-A:聴感による測定

オシレータの音を楽器の音の高さに合わせる。周波数カウンタでオシレータから出ている音の周波数を測り、その楽器の基本周波数とする。

聴感による測定の結線図
基音:聴感による測定

2-B:測定器による測定

楽器音をマイク(音圧計/騒音計)で拾い、周波数カウンタに入力して周波数を読む。

 

測定機による測定の結線図
基音:測定機による測定

基本周波数 資料

資料1 十二平均律周波数国際基準値(ミュージックアコースティックス P.40 より)

資料2 基準周波数年表

資料3 楽器の音域

2.エンベロープ

ギターの音と笛の音を聴き間違える人はいませんね。この二つの音は明らかに音色が違っています。では、ギターとピアノはどうでしょう。これもほぼ間違いなく聴き分けられるはずです。でもギターとピアノは音色が似ているのにどうして聴き分けられるのでしょうか。

 

「ギターとピアノの音色は全然似てない!」と言う人もいるかもしれません。でも事実、ギターとピアノの音色はとてもよく似ています。これは簡単に確かめることができます。ギターの弦を一本だけ「ビーーーン」と弾いて、これを録音します。録音した音を、途中から再生して聴いてみると、これが何ともギターとは言い難い音に聴こえるのです。ともすると、ピアノの音のようにも聴こえます。

これは要するに、ギターとピアノは音色が似ているということなのです。だから、音の一部分(この場合は後半部分)だけを聴くと、どちらの音なのかよく分からなくなってしまうのです。

でも、普通に双方の楽器の音を聴いたときには、ちゃんと聴き分けることができます。双方の違いは「似ても似つかない」と思うほどはっきりとしています。この違いはどこから生まれてくるのでしょうか。

 

実は、音の出方に秘密があります。ギターとピアノでは音の出方が違っていたのです。ここで音の出方と言っているのは、音が鳴り始めてから消えて行くまでの音量変化(音の大きさの変化)のことです。(厳密なことを言うと、音量だけでなく、高さや音色も微妙に変化しており、この微妙な変化も音の出方の違いに影響を与えています。)

 

音の特徴は、特に、鳴り始めから音が安定するまでの音量変化によって決まる傾向にあります。 だから、途中から再生すると、なんの音なのか分からなくなるのです。

 

 この音量変化を目で見て比べられるように、図(グラフ)にしたものがエンベロープです。これによって音そのものの特徴だけでなく、奏法や発音原理の特徴までも知ることができます。また、楽器の役割(リズム向きかメロディー向きか)とエンベロープの間にも興味深い関係をみることができます。

 

楽器音のエンベロープは単純な形のものから複雑なものまでさまざまです。しかしこれらはすべて、次の4つの過程の組み合わせとして解釈することができます。

アタック Attack 鳴り始めから最初のピークを迎えるまでの立ち上りの過程

ディケイ Decay 自然に音量が小さくなっていく減衰の過程

サスティン Sustain 安定した音量が続く持続の過程

リリース Release 発音を停止する過程

またこれらの頭文字を取って、エンベロープのことをADSRと呼ぶこともあります。

エンベロープ資料

エンベロープの測定 資料1 ADSR

エンベロープの測定 資料2  奏法による代表例

エンベロープの測定 資料3 楽器例

ダイナミックレンジ

イナミックレンジとは

 

ダイナミック=変動。レンジ=幅。つまり、日本語に訳すとそのまま「変動幅」という意味になります。では何の「変動幅」なのかというと、それは「音量」の変動幅です。

 

例えばオーケストラの演奏の場合を例に説明しましょう。客席のあるポイントに陣取って、音圧計を設置し測定を開始します。演奏が穏やかでゆったりとした部分で、最小値を記録し、そのときの音圧が36dBだったとします。また、盛り上がってティンパニーやシンバルが鳴り響いたときに、最大値106dBを記録したとします。このとき、このオーケストラ演奏のダイナミックレンジは、 106ー36=70[dB]となります。

 

ただし、ここで行う測定ではもっと積極的な解釈をします。つまり「演奏してみたらこれくらいの変動幅になった」ではなくて、「どれくらい変動幅を作ることが可能か」を調べます。できるだけ大きな音を出して何デシベル、できるだけ小さな音を出して何デシベル、という具合にして測定をします。ですから、当然ながら実際に何か楽曲を演奏した場合のダイナミックレンジよりもその幅は広くなります。言い替えると、強弱による楽器固有の表現力を調べていると言えるでしょう。

 

ダイナミックレンジ資料

ダイナミックレンジの測定 資料1 楽器例